僕はケニアで生まれた。
肌の色が違うから、物心ついた頃から、自分より幼い子どもに物乞いをされていた。ケニアだけじゃなくて、ガイアナでも、ミャンマーでも、ガーナでもそうだった。7歳のころ、物乞いをしてくる男の子にお小遣いを渡そうとして、父さんに怒られたのを覚えている。目の前で泣いていた腕のない子どもが、マフィアのビジネス道具だということを知らなかった。
頭で理解するよりも先に、格差というものが、本当に絶望的で、残酷で、どうしようもなく構造的なものだということが、原体験に刻まれている。教育も、経験も、経済的な状況も、ほとんどすべては環境に依存する。パソコンの前に座っているエリートたちも、活躍しているスポーツ選手も、僕も、たまたま恵まれた環境にいたから、あるいは降りかかった困難が乗り越えられるものだったから、いまの場所に立っている。個人の努力を否定したいわけではない。僕らはみんな、どうしようもなく埋まらない現実の溝を、他人との間に無数に抱えながら生きている。
埋まらないものを、無理に埋められるかのように語って、教育格差の是正を掲げたいわけではない。それでも、10代の子どもたちが、自分の人生に向き合い、何かを好転させるチャンスを掴むために挑戦する受験だけは、等身大の自分のままで挑戦できる機会が開かれていてほしい。積み上げてきた学習がなくても、恵まれた家庭や環境に縁がなくても、挑戦できる社会であっていいはずだと思う。
総合型選抜を、「経験を持っている子が有利な仕組み」から、この国に暮らす全ての少年少女が胸を張って挑戦できるチャンスへ変える。
そのために、この塾をつくった。
祭りの日、人と人の
「間合い」はどう変わるのか。
Tsubasa が、実際に歩いた記録です。
問いを立てて、まちに出て、目で確かめて、また問いを立てる。
——「問いを立てて動く」というのが、具体的にどういうことなのか。ここに全部あります。
きっかけは、電車だった。席が空くと、人はわざわざ端に移る。
誰も悪くないのに、少しだけ寂しい。
人と人のあいだの「間合い」って、不思議だ。
では、祭りの日、その間合いはどう変わるのか。
まず、ふだんのまちを見た。
夕方5時。祭りの前の辻堂は、ただの住宅街だった。坂と、ブロック塀と、電柱。
けれど歩いてみると、まちのあちこちに「こうしてください」が書いてある。キッズゾーン。左側通行。ボール遊びはやめましょう。
——これはぜんぶ、人の動きと距離を、そっと決めている記号だ。





ふだんの「間合い」は、環境が決めている。路面に焼き付けられた記号が、
無意識のうちに人の歩き方と距離を規定している。
——人が距離をとるのは、性格じゃなく、その場所のせいなのかもしれない。
祭りの日、間合いが縮んだ。
二日目の夕方。同じ道に戻ったら、まちの書き方が変わっていた。
「あいさつ通り」の標柱の足元に、赤白のコーンと規制テープ。電光板に「車両通行止」。段ボールに手書きの「りんじ自転車置き場」。
車が止められた道に、人がぎゅっと集まる。ふだんなら絶対にとらない距離まで、知らない人同士が近づいていた。


この2日だけ、道の使い方が変わる

手書き、画鋲どめ


環境が変わると、間合いも書き換わる。
ふだんは車が主役の道が、この2日だけ人のものになる。
間合いを決めているのは、人の気分ではなく、その日の環境だった。
そして、近さが「変わる瞬間」があった。
提灯に灯りがともった瞬間、まわりの人がふっと静かになった。太鼓が鳴ると、人が一気に近づく。
そして祭りが終わると、みんなが坂に座って、動かない。
近づいて、離れる。私がずっと撮っていたのは、その「変わる瞬間」だった。



人と人の「間合い」には、2つの層があった。
路面の記号、看板、目的。
無意識のうちに、人の距離を規定している。
環境が書き換わり、人が近づく。
そして、また離れていく。
私が撮っていたのは、「近さ」そのものじゃなかった。
近さが、変わる瞬間だった。
次の問い。
帰り道、塀の上でひまわりが咲いていた。誰かが植えたのか、勝手に生えたのかは、わからない。
一輪もらって帰って、机に挿した。


- 「近づく/離れる」を、太鼓の前後で数えてみる。撮った写真を並べれば、たぶんわかる。ひとりでできる。
- 祭りを続けている人に、話を聞きに行く。総代さんに会うには、紹介がいる。ここは、先生につないでもらう。
- 祭りは、誰にとって、何のためにあるのか。最初に棚へ上げた、大きな問いに戻る。
問いを立てて、まちに出て、目で確かめて、また問いを立てる。
この2日間で使ったのは、電車代と、カメラ1台だけです。
特別な実績も、遠くへ行くお金も、いりません。いるのは、問いだけ。
natane で毎週やっているのは、これを生徒と一緒にやることです。
問いの立て方から、どこで何を確かめるかまで、隣で一緒に決めて、現場へ行きます。
